「採用活動しない採用活動」。
形骸的な採用活動をやめる
真実を発信してミスマッチをなくす
同社のウェブサイトにアクセスし、採用ページを開くと、「採用活動しない採用活動」という文言が目に飛び込む。他にも「面接なし」「志望動機なし」といったキーワードが目を引くが、興味深いページはそれだけではない。「Yarakashiter(やらかしたー)」というコンテンツや、「先輩の指導と後輩の不満」という特集ページなど、ユニークな情報が発信されている。
これらはすべて、「ミスマッチをゼロにする」ための取り組みだ。ミスマッチは社員の早期離職の大きな理由に挙げられており、同社はその要因をなくすことをめざしている。
たとえば「Yarakashiter」が生まれた理由は、社会人に対する学生からの過度な期待をなくすためだ。学生は社会人のキラキラしている姿を理想に描くが、「社会人も間違いをするし、落ち込む日も多々ある」ということを伝えたいと考えた。そのため、「Yarakashiter」では社員の失敗談と、そこから得た学びを掲載。他の特集も同様に、そういったギャップをなくすため、同社で働く人々の真実の姿を発信している。
会社を変えるために採用を変えた
同社の採用活動が大きく変わったのは、2014年。現在は常務取締役である金井 宏輔氏が、社長室長として採用を担当しはじめてからだ。同氏は元々、大手商社で営業職として従事し、海外の大手クライアントとも取引をしていた。のちに同社に入って感じたことが、人材の質の違いだ。真面目で寡黙な社員が多く、それ自体は悪いことではないものの、人材の多様性のなさに不安を感じた。そこで、「 “社風” とはどのようにできるのだろう」と考え、それが採用活動に起因していると気が付いた。求人媒体を通し、説明会を行い、面接する。同じようなフローを辿ったことで、同じような人材が集まる。社風を変えるには、まず採用の仕組みを変え、多様な人材を取り入れる必要がある、という結論に至った。
そこから採用改革がはじまった。面接ではなく座談会を行い、より深く相手のことを知るようにする。志望動機は聞かない。応募があった時点で志望の意思はわかっており、また、「第一志望か」と尋ねても「そうだ」という回答以外得られないからだ。「求職者にウソをつかせる仕組みをやめようと思った」と金井氏は語る。これが、「面接なし」「志望動機なし」に隠された理念だ。
文化を改革する15年の計画
形骸的な採用活動をやめたことで、相互理解は格段に深まったという。それにより、特に若手社員の定着率は上がり、入社3年間で離職をする割合が約10%まで下がった。入社3年間の離職率の平均が30%と一般的に言われる中、めざましい数値だ。それでも金井氏の採用計画は、まだ道の途中だ。同氏は採用のあり方を大きく変える際に、15年間の計画を立てた。採用した人材がグループリーダーの役職まで登る頃に、社内全体の文化が大きく変わるプランニングだ。
金井氏は、「なぜこの制度があるのか」「どういうメリットがあるのか」などと、常に疑問を持ちながら物事を見ている。採用に関しても同様だ。なぜミスマッチが生まれるのか、と理由を考え、それをなくすために革新的な取り組みを行った。徐々に社内の空気は変わり、定着率も改善されているが、そこで立ち止まることはない。採用改革の目途が立った今、次は育成制度に改革をもたらすべく、意欲的に取り組んでいる。